「録ってるけど聴き直してない」を抜け出す
多くのバンドがスタジオでスマホ録音を残していますが、実際には「録っただけで聴き直していない」「聴き直しても何を改善すべきか言語化できない」という状態で止まっています。録音は上達の道具ですが、聴き方の型がないと、ただのデータの山になります。
この記事では、聴き直しを 30 分で終わらせて、次のリハに具体的な改善を持ち込むための手順を紹介します。
手順 1:聴き直す観点を 3 つに絞る
全観点を一度に見ようとすると判断が止まります。1 回の聴き直しでは、以下のいずれか 1 つに集中するのが効率的です。
| 観点 | 具体的に聴くこと | 気づきやすいタイミング |
|---|---|---|
| テンポ | 原曲との比較、曲中の揺らぎ、A メロから B メロへの突っ込み | 曲の後半・盛り上がる直前 |
| 音量バランス | ボーカルが埋もれていないか、ベースとキックが衝突していないか | サビ・全員が鳴っている箇所 |
| メリハリ | イントロから 1 サビへの飛躍、間奏の聴かせ方 | 曲の構成が切り替わる境目 |
初回は「テンポ」から始めるのがおすすめです。もっとも客観的に判断でき、直したときの効果が全員に分かります。
手順 2:タイムスタンプ付きでコメントを残す
「2:15〜2:30 のアウトロでテンポが走り気味」のように、時間を添えて残すと、メンバーが該当箇所だけを繰り返し聴けます。「全体的に走ってる」のような抽象的なコメントは、具体的な改善行動に繋がりません。
コメントの型は「時間 + 現象 + 提案」の 3 点セットです。
× 「サビがバラける」
○ 「1:48 のサビ頭、ギターとドラムが半拍ずれている。ドラムのフィル最後の 1 発を短くしてみたい」
手順 3:メンバーごとに聴く役割を分担する
全員が全観点をチェックすると、同じ指摘が重なりがちです。役割を分けておくと、それぞれが違う視点のコメントを持ち寄れます。
- ボーカルとリードギター:アレンジと歌の聴き取りやすさ
- ベースとドラム:リズム隊のグルーヴと縦の揃い
- キーボード・その他:曲全体のダイナミクス
自分の担当パートではなく、他人のパートを聴くのがコツです。自分の音ばかり気になって、全体が聴けなくなるのを防げます。
手順 4:次回リハまでに「1 曲 1 改善」を約束する
聴き直して気づいたことを次のリハに反映するルールがないと、改善は進みません。1 曲につき直すポイントを 1 つだけ決めて、次回の冒頭で確認します。多くても 2 つまでです。3 つ以上挙げると、どれも中途半端になります。
次回リハの議題としてコメントに印を付けておけば、当日その場で「何直すんだっけ」と探す時間がなくなります。
手順 5:本番 3 日前は通しで録る
リハ前半は曲ごとに細切れで止めながら録ることが多いですが、本番 3 日以内のリハは 1 ステージ通しで録音してください。本番想定の体力配分、MC のタイミング、曲間の空白時間まで確認できます。細切れの録音では見つけにくい問題が出てきます。
録音と本番の差を割り切る
スマホ録音の音質はマイクのレンジに依存します。低音は潰れ、シンバルは歪みます。この音で低音のバランスを判断しても意味がありません。リハ録音で判断するのは、次の 3 つに絞ってください。
- テンポ(走り・もたり)
- アレンジ(構成、キメの一致)
- 歌詞とメロディの聴き取りやすさ
音のバランスは、本番の PA が作るものです。リハ録音での音量バランスの議論は、優先度を下げて構いません。
パート別・自分の音を聴くときのチェック項目
| パート | 録音で確認できること | 録音では分からないこと |
|---|---|---|
| ドラム | テンポの安定、フィルの長さ、キメの位置 | 音色、シンバルのバランス |
| ベース | キックとの縦の一致、休符の処理 | 低音の量感 |
| ギター | コードチェンジのタイミング、カッティングの粒 | 歪みの質感 |
| キーボード | 入りの位置、音数の多さ | 音色の抜け |
| ボーカル | 音程、歌詞の聴き取りやすさ、ブレスの位置 | 声の艶 |
右の列に挙げた「録音では分からないこと」を録音で議論し始めると、答えが出ないまま時間だけが過ぎます。判断できることに絞るのが、聴き直しを短く終わらせるコツです。
3 ヶ月続けたときに起きる変化
この運用が定着すると、リハーサル中の会話の粒度が変わってきます。「なんかズレてる」ではなく「B メロ 3 小節目のキメ」と場所を指して話すようになります。場所が特定できれば、その場で直せます。
- 1 ヶ月目:録って聴くだけで精一杯。コメントは短くてよい
- 2 ヶ月目:指摘の場所が具体的になる。テンポの癖が見えてくる
- 3 ヶ月目:リハ中に「今の録れてる?」と自分から確認するようになる
上の目安は、観点を絞って短時間で回した場合の進み方の一例です。曲数や練習頻度によって変わります。最初のうちは効果を感じにくいので、そこで止めないことが唯一のハードルです。
よくある失敗
| 失敗 | 何が起きるか | 対処 |
|---|---|---|
| 全曲を通して聴こうとする | 2 曲目で集中が切れる | 1 回 30 分・2〜3 曲に絞る |
| 個人の批判になる | 次から録音を嫌がる人が出る | 人ではなく箇所を指す言い方にする |
| コメントが口頭だけ | 次のリハで誰も覚えていない | 文字で残して全員が見られる場所に置く |
| 録音を溜め込む | どれが最新か分からなくなる | 日付と曲名を必ず付ける |
本番の録音・録画も同じ手順で扱う
ライブ本番の音源や映像は、リハ録音より情報量が多い分、見返すのに気力が要ります。ここでも観点を絞ってください。本番で確認する価値が高いのは次の 3 つです。
- 曲間の長さ:想定より長くなっていないか。5 秒の空白でも映像だと長く感じます
- MC の実測:予定 30 秒が 2 分になっていないか
- 立ち位置と視線:客席のどこを見ているか。譜面ばかり見ていないか
演奏そのものの粗探しは後回しで構いません。本番の録画からいちばん多く改善点が出るのは、演奏以外の部分です。
聴き直しは 1 回 30 分以内のルールで
長時間の聴き直しは集中が落ちて、後半の判断が雑になります。30 分以内に終わる範囲で、観点を絞って聴くルールにすると継続できます。録音とコメントが同じ場所にまとまっていると、聴きながら書き込む動線が短くなり、習慣化しやすくなります。Setlii はリハーサル録音に対して時間範囲を指定したコメントを付けられるので、この運用と相性がよい作りになっています。
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