対バンライブが「ワンマンと同じ感覚」で組めない理由
対バンライブはワンマンと違い、複数のバンドが同じ夜に登場します。観客は他バンドのファンの入れ替わりを跨ぎ、PA や照明のオペレーターは各バンドのリクエストを短時間で把握しなければなりません。この前提を踏まえずに「ワンマンを短くしただけ」のセトリを組むと、本番で空気を作りきれません。
この記事では、対バン特有の制約を数字に落として、迷わずにセトリを決められる手順を紹介します。出順・転換・当日の進行そのものについては 対バンライブの組み方|出順・持ち時間・転換のすべて で扱っているので、あわせて読んでください。
ステップ 1:持ち時間から正味演奏時間を出す
持ち時間は企画ごとに決まります。MC・チューニング・転換の押しを差し引くと、演奏に使えるのはその時間より短くなります。下の表は「持ち時間の 8 割を演奏に使う」と仮定した計算例で、調査に基づく数値ではありません。
正味演奏時間 = 持ち時間 × 0.8(仮定)、曲数 = 正味演奏時間 ÷ 平均演奏時間。この 2 本の式で当たりをつけ、通しリハの実測で補正してください。0.8 という係数に根拠はなく、余裕を見た仮の数字です。
| 持ち時間 | 正味演奏 | 4 分の曲なら | 4 分 30 秒の曲なら | 5 分半の曲なら |
|---|---|---|---|---|
| 25 分 | 20 分 | 5 曲 | 4 曲 | 3 曲 |
| 30 分 | 24 分 | 6 曲 | 5 曲 | 4 曲 |
| 40 分 | 32 分 | 8 曲 | 7 曲 | 5 曲 |
迷ったら少ないほうを選びます。曲が余って早く終わるのは問題になりませんが、押して途中でカットされるのは印象が悪く、後続バンドにも迷惑がかかります。
ステップ 2:出順から役割を決める
同じ 30 分でも、トップバッターと大トリでは求められるものが違います。出順が発表されたら、まず役割を確認してからセトリに手をつけてください。
| 出順 | 会場の状況 | セトリの方向性 | MC |
|---|---|---|---|
| トップバッター | 客入りが途中、空気が固い | 1 曲目から強い曲。難曲は避ける | 短く・自己紹介中心 |
| 2〜3 番手 | 客席が温まっている | 自分たちの色を出す。バラードや変拍子も置ける | 1 回はしっかり話す |
| 直前(トリ前) | 観客の体力が落ち始める | テンポを取り戻す曲から入る | 大トリへの橋渡しを意識 |
| 大トリ | 残っているのは熱量の高い層 | アンコール込みで逆算 | 長めに取ってよい |
トップバッターは損な役回りに見えますが、その日いちばん観客の耳が新鮮な時間帯でもあります。初見の観客に印象を残しやすいのはむしろ前半です。
ステップ 3:他バンドとの被りをチェックする
ジャンル・キー・テンポが他バンドと重なると、観客の耳が飽きてしまいます。特にコピーバンドが複数出る企画では、同じ曲を演奏してしまう事故が実際に起きます。
- 出演者が発表されたら、各バンドの音源を 1 曲ずつ聴いて BPM 帯とジャンルをメモする
- コピー曲がある場合は、SNS の DM か主催者経由で「この曲やる予定ですが被っていませんか」と確認する
- 直前バンドと BPM 帯が同じなら、自分たちの 1 曲目をずらす
- 被りが判明したら、演奏順が後のバンドが変えるのが慣例
確認の連絡は当日ではなく 1 週間前までに済ませてください。当日に判明すると、どちらのバンドも練習していない曲に差し替えることになります。
ステップ 4:転換時間を計算に入れる
転換に取れる時間は、会場と企画のタイムテーブルで決まります。事前に共有されるタイムテーブルで確認してください。以下に該当する場合は、想定より時間がかかります。
- ドラムのセッティングが大きく変わる(ツインペダル、追加タム、電子パッド)
- DTM・同期音源を使う(ケーブル接続とレベル確認が必要)
- キーボードやサックスなど、ライブハウスの標準機材にない楽器が入る
- ボーカルが複数本のマイクを使う
これらがある場合は、転換要望を事前に主催者かハコのスタッフへ書面で伝えておきます。「ベースアンプを A から B に切り替えたい」「同期用に DI を 1 つ追加でお願いしたい」のように、必要な機材と作業を具体的に書くのがポイントです。口頭だけだと当日の担当者に伝わりません。
ステップ 5:アンコール想定の有無を反映する
対バンでアンコールが許される枠は、大トリか集客貢献度が高いバンドに限られるのが普通です。アンコールが期待できない場合は、セトリ最後の曲を「アンコールなしでも余韻が残る曲」にしておく必要があります。
逆に大トリで MC を長く取ってアンコールに流れる場合は、本編 5 曲+アンコール 2 曲が持ち時間に収まる計算を最初から組んでおきます。アンコール分を計算に入れていないと、押す原因になります。
ステップ 6:紙のセトリを 3 種類作る
対バンでは、当日に自分たちのセトリを見る人が複数います。それぞれ必要な情報が違うので、同じ紙を配ると読みにくくなります。
| 渡す相手 | 載せる情報 | 文字サイズ |
|---|---|---|
| メンバー(足元用) | 曲名、キー、MC の担当 | 大きく。暗い場所でも読める太字 |
| PA | 曲名、曲順、SE の有無、特殊な音量指示 | 通常。書き込めるよう余白を空ける |
| 照明・進行 | 曲順、各曲の長さ、MC の位置 | 通常。合計時間を明記する |
足元用のセトリは、ステージの照明が落ちた状態で読めるかを事前に確認してください。細い文字や薄い印刷は、本番で読み取りづらくなります。
初めての対バンで見落としやすいこと
- サウンドチェックは出順の逆から:トリのバンドが最初にチェックすることが多く、自分たちの番までの待ち時間が長い
- SE を使うなら音源の形式を確認:会場によって受け付ける媒体が違う。当日その場で聞くと間に合わない
- 他バンドの演奏中は物音を立てない:楽屋の会話がステージに漏れる会場がある
- 撤収の速さも評価される:転換をもたつくと、次に呼ばれにくくなる
持ち時間別テンプレを作っておくと即答できる
30 分用・40 分用のセトリ雛形を 1 つずつ用意しておくと、出演オファーが来た瞬間に「この構成で行けます」と返事ができます。曲は毎回入れ替わっても、時間配分の骨格は使い回せます。Setlii のようなツールでテンプレを保存しておけば、複製して曲だけ差し替える運用ができます。
よくある失敗と対処
| 失敗 | 原因 | 次回への対処 |
|---|---|---|
| 持ち時間を 5 分オーバー | MC と転換の押しを見ていない | 正味=持ち時間 × 0.8 で計算する |
| 直前バンドと空気が同じ | 事前に他バンドを聴いていない | 1 週間前に音源をチェックする |
| コピー曲が丸かぶり | 確認していない | 出演者発表の時点で照会する |
| 転換が長引いて 1 曲カット | 特殊機材の申告漏れ | 転換要望を書面で事前提出 |